MLBのドラフト制度って、なんだか複雑で分かりにくい…。
「どんな順番できまるの?」「1巡目だけど40位?30チームなのに?」と疑問に思ったことはありませんか?
この記事では、2025年のドラフトを例に、ロッタリー抽選・FA補償・CBAラウンド・年俸ペナルティといった制度を、初心者の方にも分かりやすく解説します。
後半では、実際の1巡目・2巡目の全指名順とその理由も一覧でまとめているので、「仕組み×実例」で一気に理解できます!
MLBドラフトとは
【基礎編】MLBドラフトってどんな仕組み?

MLBのドラフトは、一言でいうと「アマチュア選手を球団が順番に指名していく会議」です。
日本のプロ野球(NPB)にもドラフトがありますが、方式が少し異なります。
たとえばNPBでは、1巡目は各球団が希望選手を同時に指名し、重なった場合は抽選で交渉権を決定。その後は「ウェーバー方式」で指名が進みます(成績の悪いチームから順番に指名)。
一方、MLBでは最初から最後まで「完全ウェーバー方式(=基本的に成績の悪い順)」で進みます。
抽選による競合などはなく、指名はシンプルに順番に…のように見えて、実はそこにさまざまな例外ルールが絡んできます。
対象となるのは、高校・大学・独立リーグの選手など。毎年7月に開催され、現在は20巡目まで行われています。
「弱いチームが有利」という基本ルールの中に、ロッタリー制度、補償ピック、CBAラウンド、年俸によるペナルティなど、複雑な仕組みが組み込まれているのがMLBドラフトの特徴です。
【抽選制度】最下位でも1位じゃない?ロッタリー制度とは

2023年から導入されたのが「ドラフト・ロッタリー制度」。
これは、前年の成績が下位だった18チームのあいだで、1位〜6位の指名順を“抽選”で決めるという仕組みです。
つまり、どれだけ負けが込んだシーズンを過ごしても、必ずしも1位指名ができるとは限らないということ。
実際、2025年のドラフトでは、メジャー最下位だったロッキーズが抽選に外れて4位指名となりました。一方、当たりを引いて全体1位を獲得したのはナショナルズでした。
成績だけでなく“運”も必要なこの制度。
戦力補強のチャンスが「運命のガチャ」に左右される、なかなかシビアな世界です。
【救済制度】補償ピック&CBラウンド(戦力均衡ピック)とは?

補償ピック(FA流出に対する補填)
補償ピック(Compensation Picks)は、クオリファイング・オファー(Qualifying Offer)を提示したフリーエージェント(FA)選手が他球団と契約した場合、一定の条件に応じてドラフト指名権が与えられる仕組みです。
※QO(クオリファイング・オファー)は、FA選手に球団が出す「残ってほしい高額オファー」のこと。断られた場合は、その代わりにドラフト指名権をもらえる仕組みです。
与えられる順位や内容は、FA選手の契約額や流出球団の財務状況によって変わります。
🧾補償ピックの主な例(2025年)
球団 | 対象選手 | 補償理由 | ピック位置 |
---|---|---|---|
オリオールズ | C.バーンズ | QOを提示していたバーンズがDバックスへ移籍 | 1巡目後(30位) |
ブリュワーズ | W.アダメス | QOを提示していたアダメスがジャイアンツへ移籍 | 1巡目後(32位) |
🔍 補足:補償ピックは、QOを提示したFA選手を他球団に流出させた球団に与えられ、選手を獲得した球団は契約条件に応じてドラフト指名権(2巡目や5巡目など)を失います。
例:Dバックスはバーンズを獲得した代わりに2巡目指名権を、ジャイアンツはアダメス獲得で2巡目と5巡目指名権を失いました。
報奨ピックと補填ピック(個人成績に対するインセンティブ)
報奨ピック(Prospect Promotion Incentive)は、FA前の若手スター選手がMVPやサイ・ヤング賞などで上位に入った場合、その球団に報奨としてドラフト指名権が与えられる仕組みです。
【例】2025年ドラフト
ロイヤルズは、ボビー・ウィットJr.がMVP投票で、トップ3に入ったことにより報奨ピック(PPI指名)28位を獲得しました。
また、前年の報奨ピック獲得対象だったが条件を満たさなかった場合、翌年に補填指名が与えられる報奨ピック補填(PPI補填)を使い、ロイヤルズは23位も獲得しました。
🔽 指名順位にはルールがあります
ロイヤルズのように同じチームが報奨ピックと補填ピックの両方を得た場合、
指名順位の入り方には明確なルールがあります。
- PPI補填ピック(前年の分の補償)は、1巡目指名直後に優先して追加されます。
- 一方で、PPI指名ピック(今年の成績による報酬)は、その後に追加されます。
このため、2025年ドラフトではロイヤルズが「23位:PPI補填」「28位:PPI指名」と、2つの順位で指名を行いました。
🔍 補填 → 報奨の順番はすべてのチームに共通して適用されます。
💡※PPI制度は、チームがその選手をシーズン中にメジャー登録し続けた場合に限って適用されます。若手有望株の起用を後押しする制度です。
CBラウンド(戦力均衡を目的とした追加ピック)
市場規模が小さい、または収益が少ないとMLBが判断した球団に与えられる特別なドラフト指名権です。
この制度の目的は、戦力格差を是正し、リーグ全体のバランスを保つことです。
MLBは毎年「戦力均衡対象球団(Competitive Balance Teams)」を選定しています。
その中で、特に小規模・低収益の球団がCBR-A、それ以外がCBR-Bとなる傾向がありますが、
正式な区分はMLB側の内部基準に基づき決定されます。
CBラウンドは以下の2種類に分かれます。
- CBラウンドA(CBR-A):1巡目と2巡目の間
- CBラウンドB(CBR-B):2巡目と3巡目の間
いずれも通常の順位とは別に割り振られ、対象球団は毎年入れ替わります。
CBピックは唯一トレードが可能な指名権でもあります。
🗂CBラウンドの主な例(2025年)
ラウンド | 球団 | 獲得理由 | ピック位置 |
---|---|---|---|
CBR-A | タイガース | 戦力均衡対象球団 A(MLB指定) | 1巡目(34位) |
CBR-A | ドジャース | ブレーブスからのトレードで獲得(G.ラックスとの交換) | 1巡目(41位) |
CBR-B | ブリュワーズ | 未契約選手の補償として(2024年の指名失効に伴う追加指名権) | 2巡目(68位) |
CBR-B | ロッキーズ | 戦力均衡対象球団 B(MLB指定) | 2巡目(74位) |
💡未契約選手による補償ピックとは?
前年のドラフトで上位指名した選手と契約できなかった球団には、翌年の同じ巡目に近い順位で補償のための指名権が与えられます。
例えばブリュワーズは、2024年ドラフトで全体67位指名の選手と契約に至らなかったため、2025年ドラフトで補償ピック(全体68位)を獲得しました。
【高年俸球団の代償】順位ダウンのペナルティとは?

MLBでは、「年俸総額が極端に高い球団」に対してペナルティを課す制度があります。
これは「CBT(Competitive Balance Tax)」という制度で、「ラグジュアリータックス(贅沢税)」 や 「重課徴金」 とも呼ばれ、選手への支出に歯止めをかけるための仕組みです。
とくに深刻なのが、基準額を大きく超えてしまった場合。この場合、ドラフトの 1巡目指名順位が“10位分”も後ろにずれる という強烈なペナルティが課されます。
この指名順位繰り下げ措置は、通称 「セカンド・スラッシュ」 とも呼ばれています。
たとえば2025年は、年俸総額が大きく基準を超えたドジャース、メッツ、ヤンキースがこのペナルティの対象となり、本来30位前後だった1巡目指名が、40位台に繰り下げられました。
【実例で理解】2025年の指名順と理由まとめ(1巡目&2巡目)
ここでは、2025年の1巡目と2巡目の全体の流れを一覧表で整理しました。 「ロッタリーで当選」「補償ピック」「CBA枠」「ペナルティで繰り下げ」など、それぞれの球団がなぜその順位で指名したのかが分かるように説明を添えています。
1巡目
順位 | チーム | 理由 |
---|---|---|
1 | ナショナルズ | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選1位) |
2 | エンゼルス | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選2位) |
3 | マリナーズ | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選3位) |
4 | ロッキーズ | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選4位) |
5 | カージナルス | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選5位) |
6 | パイレーツ | 前年度ポストシーズン不出場(ロッタリー抽選6位) |
7 | マーリンズ | 前年度ポストシーズン不出場(成績順) |
8 | ブルージェイズ | 前年度ポストシーズン不出場(成績順) |
9 | レッズ | 前年度ポストシーズン不出場(成績順) |
10 | ホワイトソックス | 前年度ポストシーズン不出場(成績順) |
11 | アスレチックス | 前年度ポストシーズン不出場(成績順) |
12 | レンジャーズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
13 | ジャイアンツ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
14 | レイズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
15 | レッドソックス | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
16 | ツインズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
17 | カブス | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
18 | Dバックス | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
19 | オリオールズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
20 | ブリュワーズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
21 | アストロズ | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
22 | ブレーブス | 前年度ポストシーズン出場(成績順) |
23 | ロイヤルズ | PPI補償 |
24 | タイガース | 補償ピック(FA流出) |
25 | パドレス | 補償ピック(FA流出) |
26 | フィリーズ | 補償ピック(FA流出) |
27 | ガーディアンズ | 補償ピック(FA流出) |
28 | ロイヤルズ | PPI指名(Witt Jr.) |
29 | Dバックス | 補償ピック(Walker) |
30 | オリオールズ | 補償ピック(Burnes) |
31 | オリオールズ | 補償ピック(Santander) |
32 | ブリュワーズ | 補償ピック(Adames) |
33 | レッドソックス | CBR-A(トレード獲得) |
34 | タイガース | CBR-A |
35 | マリナーズ | CBR-A |
36 | ツインズ | CBR-A |
37 | オリオールズ | CBR-A(トレード獲得) |
38 | メッツ | CBTペナルティ |
39 | ヤンキース | CBTペナルティ |
40 | ドジャーズ | CBTペナルティ |
41 | ドジャーズ | CBR-A(トレード獲得) |
42 | レイズ | CBR-A(トレード獲得) |
43 | マーリンズ | CBR-A |
ドジャースは本来30位指名のはずが40位に。しかもトレードで41位も持っていたので、まさかの連続指名。
メッツとヤンキースも同様に、繰り下げられた順位で1巡目を迎えています。お金をかけるチームには、それなりの代償があるというわけですね。
2巡目
順位 | チーム | 理由 |
---|---|---|
44 | ホワイトソックス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
45 | ロッキーズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
46 | マーリンズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
47 | エンジェルス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
48 | アスレチックス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
49 | ナショナルズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
50 | パイレーツ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
51 | レッズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
52 | レンジャーズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
53 | レイズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
54 | ツインズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
55 | カージナルス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
56 | カブス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
57 | マリナーズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
58 | オリオールズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
59 | ブリュワーズ | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
60 | ブレーブス | 前年度成績下位順(プレーオフ不出場含む) |
61 | ロイヤルズ | CBR-B |
62 | タイガース | CBR-B |
63 | フィリーズ | CBR-B |
64 | ガーディアンズ | CBR-B |
65 | ドジャース | CBR-B |
66 | ガーディアンズ | CBR-B |
67 | レイズ | CBR-B(2024年66位指名権失効による補償) |
68 | ブリュワーズ | CBR-B(2024年67位指名権失効による補償) |
69 | オリオールズ | CBR-B |
70 | ガーディアンズ | CBR-B(トレード獲得) |
71 | ロイヤルズ | CBR-B |
72 | カージナルス | CBR-B |
73 | パイレーツ | CBR-B |
74 | ロッキーズ | CBR-B |
75 | レッドソックス | 補償ピック(FA流出による) |
3巡目以降の指名順について
MLBドラフトの3巡目以降も、基本的には前年度(2024年)の成績順(下位球団から上位球団)に沿って、各球団が1巡ずつ指名していき、20巡目まで続きます。
MLBドラフト指名順位の基準(2024年の勝率が低い順)
以下のリストは、2024年のレギュラーシーズン終了時点における勝率を基に、ドラフトの指名順として使用される基本の並びです(※一部例外あり)。
- ホワイトソックス
- ロッキーズ
- マーリンズ
- エンジェルス
- アスレチックス
- ナショナルズ
- ブルージェイズ
- パイレーツ
- レッズ
- レンジャーズ
- ジャイアンツ
- レイズ
- レッドソックス
- ツインズ
- カージナルス
- カブス
- マリナーズ
- ダイヤモンドバックス
- オリオールズ
- ブリュワーズ
- アストロズ
- ブレーブス
- ロイヤルズ
- タイガース
- パドレス
- フィリーズ
- ガーディアンズ
- メッツ
- ヤンキース
- ドジャース
ただし、ごく一部に例外があり、
・3巡目:アスレチックスは贅沢税(CBT)超過により3巡目の指名権を失い、エンジェルスには未契約選手に対する補償ピック(105位)が追加されています。
・4巡目:ブレーブスはマックス・フリードの移籍により発生した補償ピック(獲得側のヤンキースは補償ピックを喪失)により(136位)が追加されます。
・5巡目:ジャイアンツは、ウィリー・アダメスの獲得により、5巡目指名権を喪失。
このように、ごく一部の例外を除き、以降は2024年のレギュラーシーズンの勝率が低い順に指名が続いていきます。
・6巡目以降は成績下位順で進んでいきます。
【MLBにはもう1つの獲得ルートも】国際アマチュア選手制度とは?

MLBの新人選手獲得制度には、ドラフト制度とは別に「国際アマチュア選手制度(インターナショナルFA)」と呼ばれる仕組みがあります。これは主に中南米(ドミニカ共和国、ベネズエラなど)やアジアの一部地域の16歳〜17歳前後の選手を対象とした制度で、各球団にボーナスプール(契約金枠)が割り当てられているのが特徴です。
日本の高校生でも、プロ野球を経由せずにMLBと直接契約する場合、この国際枠での契約となるのが一般的です。
たとえば、2024年には東京・桐朋高校の森井翔太郎選手が、この制度を通じてアスレチックスと契約を結び話題になりました。
この「国際アマチュア選手制度」は、日本のドラフトとは全く異なる自由契約に近い仕組みで、将来的にNPB志望の選手にも影響する可能性がある重要な制度ですね。
まとめ:制度を知れば、ドラフトの動きがもっと面白く見えてくる!
一見シンプルに見えるドラフトですが、実はロッタリーや補償、ペナルティ、CBAラウンドなど、複雑な制度が絡み合って順位が決まっています。
制度を知ってからドラフトを見ると、「なぜこの球団がここで指名?」という場面にちゃんと理由があることが分かって、もっと深く楽しめますよ!
指名結果(1位~43位)の記事は👇