イチローの殿堂入りスピーチ|感謝とユーモア、そして決意に満ちた20分間

2025年7月28日(日本時間)、ニューヨーク州クーパーズタウンで行われた野球殿堂入り式典。
詰めかけた約3万人のファンが見守る中、イチローさんはマリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターとして登壇しました。
紺のスーツに白いシャツ、水色のネクタイという爽やかな装いで、静かにステージへ向かうと、場内から「イチローコール」が響き渡りました。

式典当日は小雨が降っていたものの、開始を1時間遅らせて天候の回復を待ち、
いざセレモニーが始まると同時に、空には晴れ間が広がり始めました。

まるで殿堂入りを祝福するかのように陽光が差し込み、聖地クーパーズタウンの空気は一層神聖なものになりました。

英語でのスピーチは笑いと感動に包まれて

現役時代はほとんど日本語で、通訳を通じて言葉を伝えていたイチローさん。
しかしこの日、スピーチではすべて英語を使い、約20分にわたって会場を何度も笑いと拍手に包み込みました。

英語でスピーチを行った理由については、
「もちろんうまくは話せないが、やっぱりアメリカのことばである英語で話すことがいちばん気持ちが伝わると思った。僕にとってものすごい高いハードルだったが、そこに迷いはなかった」
と語り、その挑戦にもイチローさんらしい誠実さがにじみます。

「新人になるのはこれで3度目です」
(ドラフト入団、MLB挑戦、そして今回の殿堂入り)──そう切り出してスピーチは始まりました。

冒頭では自身の記録にも軽く触れ、

「3000本安打や262本のシーズン安打に人々は注目します。……悪くないでしょ?」

と、ユーモアたっぷりに観客の心をつかみます。
さらに、自身に票を入れなかった唯一の記者についてもジョークを交えて触れるなど、
笑いと皮肉の絶妙なバランスで、イチローさんらしい空気感を作り上げました。

中盤では、自身の座右の銘「己を知れ」に触れたイチローさん。

「もし野球がなかったら、皆さんは『この男はなんてバカなんだ』と思っていたでしょうね」

と語り、場内からは再び大きな笑いが。

また、2015年に移籍したマイアミ・マーリンズについては、

「正直、電話で契約の話が来たとき、あなた方のチームのことを聞いたことがありませんでした」

というジョークまで飛び出し、会場は爆笑に包まれました。

日本語で伝えた“野茂英雄さんへの感謝”

イチローさんはスピーチの終盤、自身がメジャーを目指すきっかけとなった人物として、野茂英雄さんの名前を挙げました。

「私の中で葛藤がありました。その中で歴史的なことが起きます。
野茂英雄さんが、日本人として初めてメジャーで成功したのです。
その姿は、私たちを目覚めさせてくれました。彼に感謝しかありません」

そしてここだけは、はっきりと日本語でこう締めくくりました。

「野茂さん、ありがとうございました」

この瞬間、会場は深い感動と敬意に包まれました。

妻・弓子さんへの深い感謝と夫婦のエピソード

スピーチの最後には、これまで支えてきた妻・弓子さんへの感謝も丁寧に語られました。

「19年間、シアトル・ニューヨーク・マイアミと移り変わる中で、
自宅がいつもハッピーでポジティブな場所であるようにしてくれました。
私が最も信頼できたチームメートは彼女です」

と語ったあと、現役引退後には初めて夫婦で球場デートを楽しんだことにも触れ、静まり返っていた会場から再び温かな拍手が送られました。

子どもの頃に抱いた夢を貫き、野球とともに歩んできたイチローさん。

その姿に、ただただ感動と尊敬の気持ちでいっぱいになりました。
多くの人の心に残る殿堂入りスピーチと式典となったことでしょう。

殿堂入り式典までのイチローさんの軌跡はこちらの記事で

タイトルとURLをコピーしました